酔うといえば酒か乗り物です。
僕の場合、前者はたいてい気持ちのよいものであり、滅多に深酔いしません。ちょっと冗舌になり、余計に食欲が増し、幸せな気分になる程度。ほとんど居酒屋メニュの夕食で酒を呑み、食後ソファに寝転び、テレビを観ながら寝落ちする時の幸せ感は、一日の中でもっとも好きな時間帯なのです。
それに比べ、乗り物はどうでしょう。決して気持ちよく酔えません。だいたい、身体がカーっと熱くなるか悪寒が走る。目が回る。冷や汗が出る。気持ち悪くなる。
とくに船はいけません。たとえ最新鋭の大型船でも、乗る前から気持ちはどんより落ち込み、乗船の数日前から何度も天気予報をチェックしては一喜一憂。快晴、無風という文字に心は和み、波浪注意報に心がざわざわします。
日ノ出桟橋~式根島、利尻島~礼文島、村上~粟島、境港~島後~島前、那覇~粟国、仕事で止む無く乗ったこれらの航路は、いずれも辛い思い出しかありません。酔い止めを飲み、出航後すぐに寝そべり、目をつぶり、ひたすら祈るのみ。いい歳したおっさんが、情けない。
中でも2008年9月に乗った利尻島~礼文島(ハートランドフェリー)は、今、思い出しても気分が落ち込むほど辛かった。
3日前から天気は荒れ模様。波も高く、2度も欠航していました。乗船前日、運航会社に電話で確認しても、
「運航は微妙です。明日の早朝5時頃、電話いただけますか?」
と返される。翌朝、言われた通りに掛けてみると
「運航します」
そして、こんな案内があった。
「波が高いので出港地を沓形港から鴛泊港に変更します」
嫌な予感がします。それでも、仕事で行くのでキャンセルは許されない。意を決し、10時台の飛行機で羽田~新千歳~利尻と移動。利尻空港から鴛泊港まで路線バスで移動し、船に乗りこみました。
実はこの時まで、さほど風の強さは感じませんでした。飛行機も揺れなかったし、意外と大丈夫かもと、淡い期待もありました。湾内に停泊している時は揺れなんかなかったわけですから……。
一歩外洋に出たらグラングラン揺れ出した。とてもじゃないけど立っていられない。ほとんど誰も乗っていない船だったので近くにあったソファに横になりひたすら耐えます。絶えます。耐えねば…、うぅ、気持ちわるぅー・・・。ひぇー・・・。
嫌な汗が出てきます。
横になっても揺れで体ごと動きます。ソファから落ちそうです。必死に身体を支えながら、エチケット袋を片手に持ち、それでほてった顔を団扇のように仰ぎながら耐えます。忍耐です。
たった40分の船旅でもこんなに辛いとは思いませんでした。なんとか耐えることはできましたが、降りた時はヘロヘロでした。
もう二度と船になんか乗りたくない! と思っていたのに、帰りの利尻島行きは、鏡の上を滑るような、快適な船旅でした。行きはボコボコに殴られたのに、帰りはやさしく抱きしめられたような気分。
思い起こせば、今まで乗った航路も、往復すると随分印象が変わることが多かった。
こうして何度も騙されるのだろうか。船ってツンデレなのね。